フクイ イタル  fukui itaru
福井 至

  • 所属   東京家政大学  人文学部 心理カウンセリング学科
  •     東京家政大学大学院  人間生活学総合研究科 人間生活学専攻
  •     東京家政大学大学院  人間生活学総合研究科 臨床心理学専攻
  • 職種   教授
言語種別 日本語
発表タイトル パニック症のCBTの最前線と実践
会議名 日本不安症学会
学会区分 全国規模の学会
発表形式 口頭
講演区分 シンポジウム・ワークショップ パネル(公募)
発表者・共同発表者福井至
発表年月日 2025/05/25
開催地
(都市, 国名)
東京
概要 パニックと広場恐怖については、DSM-Ⅳ-TRまでは「広場恐怖症を伴うパニック障害」と「広場恐怖症を伴わないパニック障害」というように分類されていた。しかしDSM-5からは、パニック症と広場恐怖症は別々に分類されるようになった。このパニック症と広場恐怖症に関しては、パニック症の患者の25%程度が広場恐怖をもっており(Kessler et al., 2006)、広場恐怖症の患者の30~50%がパニック症を合併しているとされている(APA, 2013)。ところでパニック症の認知行動療法マニュアル(関・清水, 2016)においては、パニック症の治療を主としているものの、広場恐怖も治療の対象としている。
Pompoli et al.(2018)はcomponent network meta-analysisで、パニック症に用いられる各種技法のうち、「対面設定+プラセボ効果+心理教育+心理的支援+認知再構成+内受容感覚曝露」の組み合わせが最も効果が高く、「プラセボ効果+心理教育+心理的支援+呼吸訓練+漸進的筋弛緩法+in vivo exposure(IVE)+VR exposure(VRE)」の組み合わせが最も効果か低いことを示唆した。しかし、Freitas et al.(2021)の広場恐怖症のメタ解析では、IVEとVREの治療効果が高いことが示されている。これらのことについては、広場恐怖症の合併していないパニック症のみの人の場合にはIVEやVREは不必要な技法であるものの、パニック症を合併していない広場恐怖症のみや広場恐怖とパニック症を合併している人にはIVEやVREが必要な技法であることを示しているものと考えられる。
ところで曝露療法は、馴化の理論に基づき、Wolpe(1958)の系統的脱感作法以来行われていた、不安の低い対象から徐々に高い対象に曝露する段階的な曝露が主に行われてきた。しかしCraske et al.(2016, 2018)は、制止学習アプローチから曝露療法の効果を最大化する方法を考察し、必ずしも段階的に曝露する必要はないこと。曝露療法の効果を最大化するためには、患者のこうなるだろうという予測を裏切る結果を体験させることであると指摘した。また、光遺伝学で有名なノーベル賞学者利根川進博士らは、マウスの恐怖記憶は扁桃体の基底外側核の前方に、うれしい記憶は扁桃体の基底外側核の後方に記憶され、相互に抑制的に働くことを明らかにした(Kim et al., 2016)。このような研究の発展に基づく曝露療法の実施法の変化のみでなく、近年ではiCBTや、遠隔認知行動療法などの効果確認もされてきている。以上のような研究の発展に基づき、今後さらにパニック症や広場恐怖症の認知行動療法の効果を向上させられる方法について考察していく。